表象・メディア論系室では毎週水曜日15:00から表象・メディア論系ミーティングルーム(31号館2階1263教室)にて映画・映像鑑賞会"Hyomemura Le Cinéma"を行っています。詳しくは論系ホームページをご覧ください。5月は橋本先生のセレクトによる以下の作品を4週にわたって上映します。
Hyomemura Le Cinéma
橋本先生セレクション
5月の上映スケジュール
同一性(アイデンティティ)をめぐる冒険
変装、なりすまし、整形手術、指紋……。同一性をめぐって繰り広げられる古今東西の奇作・佳作を集めてみました。バーグマンから喜多川千鶴、ユマ・サーマンまで、女優たちの華麗な競演にも注目です。
5月9日 『ガタカ』(アンドリュー・ニコル監督、アメリカ、1997年)
5月16日 『女の顔』(グスタフ・モランデル監督、スウェーデン、1938年)
5月23日 『ある女の存在証明』(ミケランジェロ・アントニオーニ監督、イタリア、1982年)
5月30日 『多羅尾伴内・二十一の指紋』(松田定次監督、日本、1948年)
※上映前に橋本先生によるプレ・トークあり!
関連文献
橋本先生から推薦の言葉をいただきました。
5月9日 『ガタカ』(アンドリュー・ニコル監督、アメリカ、1997年)
DNAの優劣で人々が選別される近未来。「劣った」遺伝子を持って生まれたヴィンセント(イーサン・ホーク)が、元エリートのユージーン(ジュード・ロウ)になりすまして、子供の頃からの夢だった宇宙飛行士を目指す。しかしこの世界で他人になりすますには、単に見た目が似ているだけではなく、血液や尿のレベルで「同一」であることを目指さなければならない。『トゥルーマン・ショー』の脚本家としてデビューしたニュージーランド出身のアンドリュー・ニコルが初めてメガホンをとった、90年代の新たな古典。ヒロイン役のユマ・サーマンのコケティッシュな魅力と、けだるく荘厳なマイケル・ナイマンによる音楽にも要注目です。
5月16日 『女の顔』(グスタフ・モランデル監督、スウェーデン、1938年)
後にハリウッドに渡るイングリッド・バーグマンの、スウェーデン時代の作品。顔の傷にコンプレックスを持つ悪女アンナが、整形手術をきっかけとして徐々に心を入れ替えていく。悪女から淑女への機微の変化を演じ分けるバーグマンの演技が、作品を戯画的なものになることから救っている。バーグマンの初期作品としてのみ語られることが多いが、整形手術をテーマにした、もっとも早い映画作品の一つでもある。
5月23日 『ある女の存在証明』(ミケランジェロ・アントニオーニ監督、イタリア、1982年)
原題(Identificazione di una donna)は「ある女の同定(アイデンティフィケーション)」とも訳せるが、とはいえ本作では身元不明の女性をめぐっての謎解きが繰り広げられるわけではない。主人公は妻に逃げられた中年の映画監督。偶然出会った女と愛し合うが、やがてそのことで誰かから脅迫を受けるようになる。しかし誰が何の目的で脅迫しているのかも明らかにされることのないまま、女は姿を消し、男は似た雰囲気を持つ別の美女と出会う……。女は「同定」されるどころか、複数の女たちの輪郭が重なりあって、「同一性」はむしろ曖昧になる。不倫、脅迫、尾行など、犯罪映画に欠かせない要素だけを取り込んで、それを何らかの「事件」の解決には決して結び付けない本作は、ジャンル映画のある種のパロディであり、「大きな物語」の崩壊を特徴とする、80年代の「ポストモダン」あるいは「ヌーヴォー・ロマン」の世界と極めて強い親和性を持った作品である。80年代的ファッションやインテリアにも注目。
5月30日 『多羅尾伴内・二十一の指紋』(松田定次監督、日本、1948年)
小説や映画に指紋が登場するとき、それは犯人の手がかりとなるよりも、身に覚えのない犯罪に主人公が巻き込まれるきっかけとなることのほうが多い。本作においてもまた、殺人の犯人に仕立て上げられたヒロイン(喜多川千鶴)を、片岡千恵蔵演じる名探偵・多羅尾伴内が救うのであるが、記憶喪失気味の主人公には瓜二つの異母姉妹がいるし、変装を得意とする探偵の容姿はクルクルと変化するし、これではもはや救う方も救われる方も、「同一性」はまったく定まらない。それでいて物語は決して破綻することなく、当時の観客を熱狂させた大団円へときちんと収斂していくのだから、本作はもはや奇跡的な怪作とすら言えるだろう。戦後間もない東京の、焼け野原やバラックの広がる光景も見所である。

